ポストモダンにおいて破棄された「中心」という概念を絵画を通して探求し、多様な表現へと展開する。
※ここでは、「中心」という言葉は、幾何学的な中心や重心といった一般的な意味だけでなく、画面の視覚的な焦点、そして画面構成における力点としての「中心」という概念も含んでいます。
制作の原点
私は、幼い頃から絵画に魅了され、親しんできました。私の作品は、学生時代の「黒い四角」を原点とし、1980年代のアパートのドアから着想を得た「四角」というシンプルなモチーフを用いて、絵画と人間の関係性を探求しています。イリュージョンの為の道具ではなく、また単なる物でもない絵画。それは絵画の本質とは何かと問う試みです。色彩とフォルムの相互作用、そしてそれらが共鳴し合うことで生まれる魅力を通して、鑑賞者が自身の感情や記憶と出会い、新たな気づきを見出すことを願っています。

「黒い四角」1980年
1957年生まれ、島根県の豊かな自然の中で育ち、1977年創形美術学校で現代美術に出会いました。現代美術の概念的な傾向やポストモダニズムの相対主義的な価値観に違和感を覚える一方で、かつて子供たちの絵を解説する中で、「誰もが本来持っている創造性の本質」に出会いました。そこには、既存の美術の権威は何の関係もなく、役にも立たないことを痛感しました。私の「中心」の探求は、この気付きに基づいています。それは、決して固定された権威を追い求めるものではありません。子供の絵が持つ創造性を伝えるための方法論として、画面の中心を取り巻く力学的な考察を重ねた経験は、まさに私が絵画制作で実践している「中心のある絵画」の考察と深く通じています。この経験を経て絵画の普遍的な美しさと根源的な力を追求しました。視覚芸術の普遍的な原理を解明しようとしたルドルフ・アルンハイムの理論は、私の創作活動を支えてくれました。ジャクソン・ポロック以降のオールオーバーな作品とは異なる、内容と物質性を兼ね備えた作品を目指し、色彩とフォルムの独自のルールを探求しています。
学生時代、15世紀北イタリアの画家ヴィンチェンツォ・フォッパの「聖母子」(古典技法を用いたテンペラ画)や、ゴーギャン、マネなどの作品を模写していました。マティス、ボナール、クレー、ミロ、カンディンスキー、ドローネー、そして抽象表現主義者たちといった、色彩と形態の可能性を追求した画家たちの影響を受け、シンプルな中に普遍的な美を見出す表現を追求しています。
中心を置くと決断する
1990年代以降、「帯」や「二つの正方形」といったモチーフを、切り絵、版画、アクリル画といった技法で表現し、絵画と直接向き合うことを試みてきました。中心を置くというシンプルな表現は、率直にコミュニケーションを図りたいという欲求を表しています。中心は視線を惹きつけ、キャンバス全体との繋がりを生み出し、キャンバス全体と中心の間の視覚的な動きは連続性を生み出すと私は考えました。シンプルな形でありながら強力な磁場を生み出すこのモチーフは、人を魅了すると同時に、解放への矛盾した欲求を呼び起こします。
『中心』というフィルター
ポストモダンの相対主義が蔓延する中で、普遍的なものを求めることはできないだろうか思いました。そこで、キャンバスに中心を置くことで、美術史の成果を自由に解釈できるフィルターを得ようと試みました。この決断は、私の創作活動の出発点であると同時に、絵画史と表現の可能性を考察するための理論的基盤となりました。凧を高く飛ばす糸のように、制約の中に自由を与えるものとして捉えました。この概念は、私の心と環境の中で徐々に変化し、凝縮と拡張という過程を経てきました。
理解と共感
色彩、そしてその関係性は、私の創作活動において重要な関心事です。絵画製作は、素材の選択、色彩の調和、形態とリズム、部分と全体、そして感情の解決といった多様な要素を統合する事だと考えています。それができれば、画面は生き生きとし、鑑賞者の心に生きる喜びが呼び起こされ、この世界の奥深さに触れる道が開かれると確信しています。私の作品を通して、鑑賞者が自分自身の物語や感情に出会い、新たな発見やインスピレーションを得ることができれば、幸いです。
対話の場
モダニズム絵画が絵画そのものの自律性を追求している姿勢に、私は作品との交流を感じていました。そのため、純粋性の追求のみに焦点を合わせるのではなく、その過程で生じる交流を大切にし、「中心」を通して鑑賞者との対話を促すことで、絵画の新たな可能性を探求しています。
モンドリアンのようなモダニズム絵画に見られる純粋性と統一された全体性の追求とは異なり、私の作品はまず鑑賞者の視線を「中心」へと引き寄せ、その後、キャンバス全体へと巡らせるように導きます。この能動的な視覚の旅は、鑑賞者が作品の構造と意図を解読し、それを自身の内的経験と結びつけるよう促します。
私にとって「中心」とは、変化の軸であり、関係性を築き、そして自身の表現を確立する軸であり、鑑賞者との対話の場を創り出す基盤でもあります。今後もより柔軟に「中心」を追求し、絵画を通して鑑賞者との新たな対話を生み出す作品を制作していきたいと考えています。